当事者目線で寄り添いながら原因探し
仕事をする上で必要不可欠とされる報告・連絡・相談。
軽度知的障害(4度)と発達障害のあるYさんは、この報連相が苦手です。
Yさんが通所を開始し訓練を進めていく中で、私たちはYさんからの報連相が殆どないことに気が付きました。
たとえば取り組んでいる事の状況報告をお願いしてもなかなか報告が上がらない、という具合です。
Yさんはなぜ報連相が出来ないのか?
報連相の重要性を理解していないから?
何を報告すべきか分からないから?
タイミングが分からないから?
それともスタッフが怖いから?
そもそも報連相を知らないから?
さまざまな理由が考えられ、そこには障害特性が絡んでいる可能性も高いので、私たちはYさんなりの理由を探っていくことにしました。
正確さを追求せずにいられない障害特性
まず、報連相が大切な理由を理解しているかを確認しました。
Yさんには、その重要性について自分で説明できるほどの理解がありました。
次に、何が報告・相談すべき事柄になるのかを質問してみました。
すると、Yさんには報告したいことがあっても「それを文章にすることが難しい」ということが分かりました。
また「頭の中でちゃんとした文章になっていないと話せない」気持ちがあることも分かり、正確さを追求せずにいられない障害特性が見えてきました。
声掛けのタイミングを見極められるように具体的に説明
その後もしばらくは、Yさんからの報連相の様子は大きく変わりませんでした。
とは言え、報告事項がある時にはスタッフの姿を気にしている様子が手に取るように分かります。
声がけのタイミングが見極められないのかと思い、たとえば「スタッフが自席にいて誰かと話しをしていなければ声を掛けて大丈夫ですよ」と、具体的にお伝えしました。
それからは、ぽつぽつとYさんからの報告は上がるようになりました。
しかしスタッフの様子を伺い続け、報告が退所時刻ギリギリになることも少なくありませんでした。
過去の嫌な経験が、したくてもできない報連相に
そんなある時Yさんは、
・自分の言動に対する相手の反応をもの凄く考えてしまい不安に陥ってしまう
・時には冷や汗が出てくる程の恐怖を感じる
ことを明かしてくれました。
この背景には、予期せぬことに対して強い不安を抱きやすいという障害特性がありました。
また過去の嫌な記憶が鮮明に呼び起こされ、ますます不安が強くなってしまう傾向があることも分かってきました。
実は、Yさんにとって人に話し掛けるという行為は、時に極度の緊張を強いる大変な行為であり、だからこそ上手く報連相ができずにいたのです。
自発的に工夫を凝らして苦手を乗り越えようとする姿勢に感銘
しかしYさんには、どんなに苦手なことでもできるようになりたいと努力を重ねる姿勢があります。
この一連のなかでも、Yさんは報連相ができるようになりたくて、「〇時〇分になったらスタッフの所に行こう」と自発的にきっかけを作り、勇気を振り絞っていました。
また、過去の嫌な記憶が湧き上がってきたら、ここでは同じことは起こらないと懸命に自身を落ち着かせていたことも分かりました。
報連相が苦手だとういう一つの事柄から、Yさんの障害特性のみならず、その人柄や考え方、過去の経験に至るまで、様々なことが紐解かれ自己理解に繋がっていきました。
また私たちにとっても、Yさんの努力を続ける姿を周囲に伝えていくことも支援者の大切な役割だと胸に刻む出来事になりました。
今後もYさんの頑張りに寄り添いながら就労移行支援を続けていきたいと思います。
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